Oracle Fusion Cloud ERPのAIってどんなもの?
Oracle AI World の開催にあわせて、Oracle のエンタープライズ AI に注目が集まっています。
その一方で、「Oracle Fusion Cloud ERP(以下、Fusion ERP)に AI が入っているらしいけれど、実際に何ができるの?」「追加のライセンスや費用はかかるの?」と気になっている方も多いのではないでしょうか。
この記事では、Oracle の公開情報をもとに、Fusion ERP の AI を 3 つの段階に分けて整理します。あわせて、請求書の処理を例に、これまでの業務がどう変わるのかを具体的に紹介します。
1. 標準で組み込まれている AI 機能
Fusion ERP をはじめとする Oracle Fusion Cloud Applications には、AI エージェントやアシスタントが最初から組み込まれています。Oracle の発表によると、その数は Fusion Cloud Applications だけで 400 以上、業種向けのアプリケーションも合わせると 600 以上にのぼります。
これらは別の製品やモジュールとして追加するものではなく、いつもの業務画面や標準のワークフローの中で使えるようになっています。開発や保守、アップデートは Oracle が行うので、自社でエージェントを一から作らなくても、すぐに使い始められます。新しい AI 機能も、Fusion の四半期ごとのアップデートで自動的に届きます。
2. 自社に合わせた AI エージェントを作れる「AI Agent Studio」
標準の AI 機能だけでは対応しきれない、自社ならではの業務もあります。そのために Oracle が用意しているのが「AI Agent Studio」です。ノーコード・ローコードで、自社向けの AI エージェントを作り、試し、本番で使い始めるところまでを一つの場所で行えます。2025 年のリリース(25C)から提供が始まり、Fusion のサブスクリプションに含まれています(標準以外の AI モデルを使う場合などは、追加の費用がかかることがあります)。
AI モデル(LLM)は、OpenAI、Anthropic、Cohere、Google、Meta、xAI など、いくつかの中から選べます。Oracle が確認したパートナー製の AI エージェントを入れられる「AI Agent Marketplace」も始まっています。
3. 仕事を任せる「Agentic Applications」と「Fusion Claw」
さらに一歩進んで、業務の一連の流れを AI に任せるのが「Fusion Agentic Applications」です。Oracle は 2026 年 9 月 29 日、その中心となる実行基盤「Fusion Claw」を発表しました。
Fusion Claw では、AI(大規模言語モデル)が考えて計画を立て、計算や取引の処理は従来のソフトウェアが正確に行います。こうして役割を分けることで、判断が何段階にも分かれる業務や例外の多い業務のように、時間がかかり、途中で何度も計画を見直す必要がある仕事を、AI が自分で、しかも正確にやり遂げられるようにしています。
発表とあわせて新しいアプリケーションが 25 加わり、Agentic Applications は全部で 75 になりました。
ERP の分野では、仕訳の自動照合や、会計の例外の調査・分析などが代表的な例です。人事の要員計画や、出荷のまとめなども対象になっています。
AI に「任せる」ための歯止め
AI に業務を任せるとなると、いちばん気になるのは「勝手な処理をしないか」という点ではないでしょうか。
Fusion Claw では、業務ごとに、目的、実行してよい範囲、どこまでのリスクを許すか、どんなときに人の承認を必ず求めるかを、企業側で決められます(Oracle はこの枠組みを「Enterprise Operating Envelope」と呼んでいます)。
計画の段階で必ず人が確認・承認するか、あらかじめ決めた範囲の中なら AI に任せるかも選べます。AI がどんな根拠で判断し、何を実行したかはすべて監査の記録として残るので、あとから確かめることもできます。
なお、Fusion Claw は Agentic Applications の中で動く仕組みです。先に触れたとおり、Agentic Applications の費用の体系は Oracle の発表では示されていないため、検討するときは Oracle か導入パートナーにご確認ください。
4. これまでの使い方と、AI エージェントを使った使い方の違い ― 請求書の処理を例に
これまでの Fusion ERP は、担当者がメニューから画面を開き、入力・確認・承認を一つずつ進める「人が操作するシステム」でした。
AI エージェントを使うと、決まった手順の作業は AI が進め、人は例外への対応や最後の判断に集中する、という分担に変わります。ここでは、買掛金(支払)の担当者が行う請求書の処理を例に、主な違いを表にまとめました。
| 観点 | これまでの使い方 | AI エージェントを使った使い方 |
|---|---|---|
| 仕事の進め方 | 担当者が画面を開き、手順どおりに一つずつ操作する例:メール、仕入先のポータル、紙や PDF でばらばらに届く請求書を集め、承認の依頼を回す | AI エージェントが一連の手順を進め、人は結果を確かめて承認する例:メール、ポータル、EDI・電子インボイス、PDF で届いた請求書を AI がまとめて受け付け、承認と支払の流れに回す |
| 入力とチェック | 書類を見ながら手で入力し、目で確かめるので、誤りに後から気づくこともある例:仕入先・金額・税を入力し、発注書や検収(受入)の記録と突き合わせ、重複や誤りを目で確かめる | AI が書類から内容を読み取り、処理の途中で自動的に確かめる例:発注書や検収との照合、配分、会計の仕訳の作成、税や重複・不正の疑いのチェックまで AI が進める |
| 人の役割 | 入力や照合などの作業が中心 | ルールを決めること、例外への対応、判断が中心例:担当者は、AI が止めた例外と承認に集中する |
AI エージェントを使っても、Fusion の権限や承認のルールはそのまま効きます。どこまでを AI に任せ、どこからを人が判断するかを、自社のルールに合わせて決められるのも大きな強みです。
例に挙げた「Payables Agent」
表の右側の例は、Fusion ERP に組み込まれた AI エージェント「Payables Agent」の働きです。2026 年のリリース(26B)で一般提供が始まった、財務向けのエージェントの一つです。
Payables Agent では、1 枚の請求書を、役割の違う複数の AI エージェントが順番に処理します。まず読み取り役のエージェントが書類から内容を取り出して確かめ、次にチェック役のエージェントが、金額が大きすぎないか、通貨が合っているか、重複していないか、税が正しいかを確かめます。そのうえで、社内のルールや過去の配分の傾向をもとに、費用を配分します。
また、仕入先に決まった書式の請求書を使ってもらわなくてもよい点も、Oracle は特長として挙げています。
※実際に使うには、Oracle が定めるインフラ環境や前提バージョンなどの要件を満たす必要があります。対象のリリースや技術的な前提条件は、Oracle の公式ドキュメントでご確認ください。

5. 安心して使うために知っておきたいこと
- データの扱い:Oracle は、利用企業の業務データを AI モデルの学習に使わない方針をはっきり示しています。
- 権限:Fusion ERP で設定したロール(役割)ごとの権限が、AI エージェントにもそのまま当てはまります。権限のないデータを見たり、処理したりすることはありません。
- 段階的に始められる:まずは標準で組み込まれた AI から使い始め、必要になったら AI Agent Studio で自社向けのエージェントを作ったり、Agentic Applications を取り入れたりと、少しずつ広げていけます。
6. 導入・活用を考えるときのポイント
AI の機能は四半期ごとのアップデートで増えていくため、「どの機能を、どの業務から使うか」を先に決めておくことが大切です。たとえば、次の順で考えると進めやすくなります。
- いまの業務で、時間がかかっている作業や、確認に手間がかかっている作業を洗い出す
- 標準で組み込まれた AI で足りるかを確かめる
- 足りない部分は、AI Agent Studio で自社向けに作るか、Agentic Applications を使うかを考える
- 承認や権限のルールを決めてから、小さな範囲で試す
おわりに
Fusion ERP の AI は、「画面の中で手伝ってくれる AI」から、「決めたルールの中で仕事を進めてくれる AI」へと広がっています。
FREEDIA では、Oracle Fusion Cloud ERP の導入・移行と、AI を使った業務の見直しを支援しています。Oracle AI World の現地の様子や役立つ情報も発信していますので、あわせてご覧ください。
【まとめ】「Oracle AI World」の魅力と、現地で失敗しないための歩き方 シリーズ一覧
出典
- Oracle:Oracle Extends Fusion Agentic Applications with Introduction of Fusion Claw(2026-09-29)
- Oracle:Oracle Expands AI Agent Studio for Fusion Applications with New Marketplace, LLMs, and Vast Partner Network(2025-10-15)
- Oracle Fusion Insider:2 ways you can adopt AI agents in Fusion apps
- Oracle:Fusion Applications AI(custom AI)
- Oracle:Oracle AI Agents Help Finance Leaders Accelerate Business Insights and Boost Efficiency(2025-10-15)
- Oracle Fusion Insider:Agentic AI in ERP: four agents you can use today
- Oracle Fusion Insider:This agent takes the hassle out of electronic invoicing














